<ねえ山羊さん、なぜ君は動きもしない時計をいつもぶらさげてるの?重そうだし、役にもたたないじゃないか>ってさ。<そりゃ重いさ>って山羊が言った。<でもね、慣れちゃったんだ。時計が重いのにも、動かないのにもね>。
『風の歌を聴け』村上春樹(講談社)

認知行動療法という心理療法があります。日本でも世界でも、この20年ほど、心理療法の中心にいると言ってよい療法です。
この認知行動療法は、うつや不安などの精神症状によい効果があるという証拠(エビデンス)がたくさんあるため、幅広く支持されています。
また、はやりの「マインドフルネス」なども認知行動療法の一種ととらえることもできます。
そして、認知行動療法はクリニックやカウンセリング現場だけで役に立つのではありません。認知行動療法のエッセンスは、日常のストレス対処にも役立ちます。親子でも、夫婦でも、学校でも、職場でも活用できるのです。
今回から何回かにわたって、認知行動療法の肝(エッセンス)を、美味しいところを抜き出して、ご紹介していきたいと思います。
さて、その前に。
ストレスがあるときには、心や体に変化があるものです。そんな時に、つぎの四つの観点からストレスを見つめるのがおすすめです。
(1)考え、思考
(2)気持ち、感情
(3)身体
(4)行動
例えば、こんな場面。
「明日学校で、大切な英語の試験があるんだけど。試験でいい点が取れるか、すっごく心配。もう寝ないといけないのに、緊張して眠れないな…。ちょっと起きだして、もう少し勉強しようかな」
学生にはよくある場面です。こんな場面は、このように分けられます。
「試験でいい点が取れるだろうか」→「考え、思考」
「すごく心配」→「気持ち、感情」
「緊張して眠れない」→「身体」
「もう少し勉強する」→「行動」
認知行動療法では、この中の「考え、思考」と「行動」に焦点を当てるものです。次回以降、どのように焦点を当てるのか、見ていきたいと思います。